映画「ハーフオブイット面白いのはこれから」。
5月1日ネットフリックスで配信された本作は、公開されるとすぐに世界中で称賛されました。
少女エリーが同級生のポールの代わりにアスターにラブレターを書くことから物語が始まっていきます。
ティーンならではの恋愛、友情などをベースにした話ですが、単なる青春ストーリーではありません。
近年大きく取り上げられるようになったLBGTや人種差別などもテーマにした考えさせられる深みのある内容になっています。
ぜひ、大人にも子どもにも見て欲しい注目の作品です。
目次
ハーフオブイットの監督
ハーフオブイットの監督はアリス・ウー。
1970年生まれ。
カリフォルニア州出身。
16歳でマサチューセッツ工科大学に入学しスタンフォード大学でコンピューターサイエンスの博士号を取得した秀才。
20代はソフトウェア開発をおこなっていた経歴がある。2005年「素顔の私を見つめて…」で映画監督デビューを果たす。
ハーフオブイットの登場人物&キャスト
参考:ネットフリックス
はじめにハーフオブイット面白いのはこれからの登場人物とキャストをご紹介していきます。
エリー・チュウ役 リア・マリー・リャン・ルイス
1996年生まれ。中国系アメリカ人。
生後8か月の頃、中国上海の孤児院から養子に出されフロリダで育つ。
子役の頃からキャリアをスタートさせ、19歳で単身ロサンゼルスに渡る。
ポール・マンスキー役 ダニエル・ディーマー
1996年生まれ。カナダ出身。
カナダでモデルや俳優としてキャリアをスタート。
本作ではオーディションで600人の中からポール役に抜擢される。
アスター・フローレス役 アレクシス・レミール
1996年生まれ。アメリカ・ニューハンプシャー州出身。
2016年から本格的にキャリアをスタート。
モデル活動などもおこなっていた。
トリッグ・カーソン役 ウォルフガング・ノヴォグラッツ
1997年生まれ。
ネットフリックス映画「シエラ・バージェスはルーザー」や「ラスト・サマー~この夏の先に~」などに出演している。
エドウィン・チュー役 コリン・チョウ
1967年生まれ。台湾出身。
幼少期に武術に興味を持ち、スタントマンの道を歩み始める。
18歳で台湾映画「全力反彈」に主演。以降、ハリウッド作品や日本映画等、様々な作品で大活躍している。
ハーフオブイットの舞台
アリス・ウー監督はデビュー作品の後、映画界から姿を消してしまいました。
病にかかった母親の介護のためにサンフランシスコに戻ってしまったのです。
当時39歳だったアリスは、20代はコンピューター・サイエンティストになり30代は映画の1作目を作り、40代は家族の面倒をみることに集中することを選びました。
デビュー作の「素顔の私を見つめて」ではレズビアンであることを隠してきた娘と若い男性との間に子どもを作ってしまった母親が中国人コミュニティの中で生き抜くという内容。
レズビアンを公表しているアリスは、本作でも自身の体験や人生観に基づいた作品を作っています。
当初、この映画は20代のレズビアン女性とストレートの男性が愛を理解していく物語の予定でした。
しかし、アリス自身が愛という本質をまだ見抜いていなかった為に愛とは何かを探し求めるティーンエイジャーの物語に変更。
現にアリスにはポールのような白人男性の親友がいます。
親友に恋人ができるとその彼女はアリスたちの仲に嫉妬し、このことがきっかけで親友との仲が疎遠に。
恋愛感情はなかったものの傷を負ったアリスは、この時友情を失った痛みと向き合う為に本作品を執筆したと語っています。
エリーが抱えるもの
アメリカの田舎町に住む高校生のエリー・チュウは中国人。
中国人であるが故に学校で差別を受けています。
そんなエリーは心を閉ざし、学校では友達を作ることもなく、決して楽しい高校生活を送っているわけではありませんでした。
秀才な彼女はクラスメイトたちのレポートの代筆をして小遣いを稼いでいます。
エリーは父親と二人暮らし。
母親は幼い頃に亡くなり、父親は工学博士でしたがアメリカに移った後は英語が話せないことが原因で思うような仕事に就けず、経済的に苦しい生活をしています。
ある日、エリーはアメフト部所属のポール・マンスキーからラブレターの代筆を頼まれます。
ポールが好きなのは学校一の美人、アスター・フローレンス。
彼女は頭がよく、裕福で人気者のボーイフレンド・トリッグもいる。
それでも周囲とは心から打ち解ける事はできず、彼女もまた、孤独を感じていました。
一度は断ったものの、家の電気代を早急に用意しなければならなかったエリーは仕方なく引き受けることに。
代筆した手紙を出し、アスターから返事が来る日々が続きますがエリーは複雑でした。
エリーはアスターのことが好きなのです。
レズビアンの彼女はアスターへの気持ちを心に秘めながらポールに協力していました。
ポールは心の理解者
ポールは相変わらずアスターに夢中。
一方で、ポールとエリーは恋愛成就の作戦を通して一緒にいる時間が多くなり、夢や家族の事まで互いについてたくさん話しました。
自宅にも遊びに来るようになったポール。
エリーがクラスメイトにからかわれると迷いもなく守ってくれます。
これまで友人ができず、心を閉ざしてきたエリー。
二人が距離を縮めていく姿は見ていて暖かい気持ちになります。
相変わらずポールに代わり、アスターと連絡を取り合うエリー。
ポールに成りすましてはいるものの、自分自身の考えや好みが共感され、アスターへの気持ちはどんどんと加速していくのでした。
ふとアスターへの気持ちを口にしてしまったエリー。
ポールはそういう気持ちこそが真実の愛であることに気づき、自分の愚かさとエリーにバカにされたという思いから取り乱します。
エリーのアスターへの気持ちには気づかなかったポール。
エリーはポールをなだめ、励ましました。
デートの日、秀才で知識の多いアスターに対し、勉強が得意じゃないポール。
手紙とは違い、上手く会話ができず気まずい雰囲気になるもエリーの助け船でデートはなんとか成功。
この時のエリーの複雑な表情が印象的です。
嫌がらせをうけたエリー
別の日、学校では学芸会が行われていました。
ソロでピアノを弾く予定だったエリー。
しかし、クラスメイトの嫌がらせでピアノの弦が切られていました。
見兼ねたポールはクラスメイトのギターを借りエリーに渡し、称賛を受ける事になるのでした。
実はエリーがギターで弾き語りをする姿をこっそりとみて知っていたポール。
彼はいつもエリーのヒーローです。
すれ違うそれぞれの気持ち
ポールとパーティーに参加し、泥酔したエリーはポールに介抱され彼のベッドに運ばれました。
エリーのバッグから荷物が落ち、拾おうとしたポールがみたものは何人もの料理評論家宛の手紙でした。
差出人名はポール。
エリーはポールの夢を応援しようと手助けしてくれていたのです。
翌朝、ポールの部屋でアスターに出くわしたエリー。
二人は一緒に出掛けることになりました。
そこでポールからの手紙を読み、初めて理解者と出会えたと思ったと言うアスター。
エリーもアスターが自分の理解者であると思っていたので、その言葉を聞き嬉しくなりました。
アスターは当然、ポールが書いた手紙だと思っている為、ポールへの感情を改めて確認しキスをします。
それを見てしまったエリーはひどく動揺。
後日、ポールはラグビーの試合があり、エリーも駆け付けていました。
終了後、二人になった時ポールがエリーにキスをしようとし、とっさに拒否してしまいます。
アスターが偶然にも居合わせてしまい、アスターに言い訳したエリーの姿を見たポールはエリーの気持ちを察してしまうのです。
「罪だ、地獄に落ちる」と発したポール。
この言葉はキリスト教徒では同性愛者は地獄に落ちるといういわれがあることが所以とされています。
ハーフオブイットの最後は?
元気のない娘を見兼ねたエリーの父親。
ポールにエリーと別れたのかと尋ねてきました。
ポールは「あなたはエリーの本当の姿が見えていない、可能性が」と言い、父親はエリーにはありのままの姿でいて欲しいと答えるのでした。
イースター礼拝が行われていた教会では、トリッグが突然アスターにプロポーズをしました。
そしてエリーが立ち上がり「ダメ!」と声をあげます。
加えてポールも愛について語り始めます。
そして自分が数か月偽り続け、苦しい思いだったということも。
エリーのようにさまざまな愛の形を邪魔したくないと理解を示したポール。
エリーも続けます。
彼女の言葉を聞いてポールからの手紙を書いていたのがエリーだったと気づいたアスター。
彼女はポールの頬を叩き出て行ってしまいました。
エリーが帰宅すると父親が「私みたいにならず母さんみたいになりなさい」とグリネル大学への進学を勧めます。
しばらくしてエリーはアスターに会いに行きました。
謝罪をしたエリーにアスターは「心のどこかで気づいていた」と言い、再会を約束します。
そして最後にエリーはアスターにキスをし「数年後に会おう」と去って行きました。
エリーが町を離れる日。ポールが駅まで見送りに駆け付けてくれました。
一度はレズビアンのエリーを否定したポール。
それでも考え直し、エリーのすべてを受け入れ友情を取り戻そうとしてくれる彼の気持ちに深い優しさを感じます。
走って電車を追いかける彼の姿を見てエリーは涙を流して町を出るのでした。
ハーフオブイットの感想は美しい
この映画の印象はただただ「美しい」でした。
主人公は田舎に住むごく風通の高校生たち。
それぞれが悩みを抱え、愛を伝え、でも決して叶うこともない結末でした。
彼女たちの切なさや憂鬱さなどの感情がリアルで、それこそが青春の美しさだと感じました。
そして、エリーが好きになった相手が同級生の女子。
愛にはさまざまな形があるという話の構成が現代向きで面白いと思いました。
仲良くなってしまったポールの恋を応援したい気持ちと自分が恋する気持ちで揺れ動くエリーが切ないです。
監督自身がレズビアンをカミングアウトしているので、エリーの心情をよりリアルに描けているのだと思います。
私は中でもストーリーを追うごとに良い人キャラが全開のポールがお気に入りです。
エリーの気持ちを知ったポールはひどい言葉を投げかけますが、最終的に理解し受け入れるシーンは感動。
強がっていたけど本当は寂しかったエリーはこんな心優しい友達に出会えて良かったなと思いました。
ラストはなんだか暖かい気持ちになれる、素敵な作品です。